「あなたは、それ自体ではさして大きくはない男女の間の差異に、やたらと拘泥する文化の出身だ。そうでなければ、本当は両性の違いが実にわずかだということを理解するだろう」
           
「ヴィーナス・プラスX」シオドア・スタージョン(大久保譲訳) 国書刊行会

 チャーリー・ジョンズは奇妙な世界で目を覚ました。銀色の空、奇妙な服装をした、男とも女ともわからぬ人々。通じない言葉。セレブロスタイルという特殊なやり方で彼らの言語を学んだチャーリーは、そこが人類滅亡後の地球であり、ここにいる人間は彼ひとりであることを知る。だが、その人々、レダム人は、彼らのことをすべて知り、評価してくれれば、チャーリーを元の世界に戻そう、という。それが交換条件である、と。愛するローラの思い出を胸に、進んだ科学を持つレダムのすべてを、チャーリーはフィロスという案内人とともに見学する。過去ではなく、未来を崇める人々。大切にされる子どもたち。そして、チャーリーが下したレダムへの評価とは。
 スタージョンの幻の長編SF登場、という言葉につられて読んでしまった。おもしろい。
 物語は、チャーリーのレダムでの生活の一方で、ハーブ・レイルとその妻ジャネット、隣人のスミス夫妻とのやりとりが挿入されるようにして進む。子どもを愛する父親であり、女性進出の社会に戸惑い、男女の性差に関してジャネットや隣人のスミスとやりとりするハーブの姿が、レダムに踏み込んでいくチャーリーの姿と同時に描かれるさまは、なんともいえない物語構成の妙である。さすがスタージョン。他愛のない日常の中に含まれる微妙な棘、影のようなものが、レダムの世界と重なったときに見える模様はなんともいえない。
 特に最後のほうで語られるフィロス自身のレダム観、レダム人自身の主張、そしてチャーリーの運命には目が離せない。絶対のオススメ。なおタイトル「ヴィーナス・プラスX」の意味は、作品中、チャーリーが解き明かしてくれる。こういうおしゃれなタイトルをつけられるところもすごいなって思ってしまうのである。



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