あと十年したら、わたしはこの人の年齢に到達するのか。そう思って、彼女の顔を正面から見つめた。十年前の彼女を探し出そうとした。
十年のあいだに、わたしはどれだけ変わるのか。どこがどう変わって、どこがどう変わらないのか。
「Your Voice 君の声に恋をして」 新津きよみ 理論社
新任の美術教師として中学校に着任することになった岡里菜。彼女には、二年前、つきあっていた最愛の恋人を何者かに殺されてしまったという過去があった。通り魔的な犯行だったのか、犯人はいまだつかまらず、恋人のことを忘れられない里菜を、彼の家族も、里菜自身の家族も心配していた。そんなある日、里菜は家の近所のコンビニで、恋人、伸にそっくりな声を耳にする。伸がまだ中学生だったころの声にそっくりな声を持っていたのは、里菜が担当する中学三年生のクラスにいる五十嵐薫だった。大人びた雰囲気を持つ彼もまた、里菜と同じように絵画を愛好していたが、それだけではなく、どうやら彼には不思議な能力があるらしいことがわかってくる。薫の特殊な能力を使えば、伸を殺した犯人を捕まえることができるのではないか? "伸の声"に邂逅するというあり得ない出会いから心を揺らしていた里菜は、犯人探しに夢中になったばかりに、ついには小さな事件を引き起こしてしまう……
物語は里菜から描かれたものと、薫の従妹で、たった一日の違いで中学二年生と中学三年生という隔たりを持ってしまったことを悔しがっている牧野珠緒の側から描かれたものが交互に語られるという形をとっている。かつては双子のようだといわれ、仲の良かった従兄が自分の手の届かないところにいってしまったような気がしてさびしい中学二年生の珠緒の目からみれば、里菜は完全で完璧な大人の女性。けれど里菜自身は、亡くなった恋人のことが忘れられず、その思いをひきずるばかりに家族ともぎくしゃくしてしまったりする幼い面をも併せ持つ女性だ。そのことになかなか気づかず、薫を取られそうだという思いから里菜を理解しようとしない珠緒が、ある事件をきっかけに里菜への理解を深めてゆく。
人は誰でも成長してゆく。自分もいつか大人になるし、いま大人として生きている人も、かつては子どもだった。
大人も子どもも、泣きたいときやさびしいとき、うれしいとき、誰かと心を通わせるときがある。そんなさまざまな心の動きをやさしく描いた作品。
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