「おばあさんが、タクシー会社の事務所にとじこめられているとしたら、それなりの理由があるんだろ?」
「その人、死んでるんだ」
「ヴァイオレットがぼくに残してくれたもの」ジェニー・ヴァレンタイン(冨永星訳) 小学館
「ぼく」ルーカス・スウェインは、ある日、タクシーに乗ろうとしてタクシー会社に行き、ヴァイオレットと出会った。といってもヴァイオレットは、事務所の上に置いてあった骨壺の中に入っている女性だ。どうやら葬儀の帰り道にタクシーに乗った誰かがヴァイオレットの骨壺を置き忘れ、そのまま取りに来なかったらしい。取り立てて意味はないがヴァイオレットに興味をひかれたルーカスは、なんとかして骨壺を手に入れようとするが……――
ヴァイオレットの話とは別に、ルーカスは、母、姉、弟を置き去りにして失踪した父のことも気になっている。ふだんは気にしていないが、母のことが可哀想になったり、どうして父がいなくなったんだろう、と考えこまざるを得なかったりするときがあったりするからだ。そして、なんとヴァイオレットの過去を調べ始めたルーカスの前に、父の影がちらちらと浮かび上がり始める。いったい父とヴァイオレットのあいだに何があったのだろう?
軽い口調で書かれたヤングアダルト作品。2007年ガーディアン文学賞受賞、2008年ブランホード・ボウズ賞ロングリスト……って、とりあえずはヤングアダルト作品として高い評価を得ている、ということだ。ミステリーとコメディーがほどよくマッチしていて、父親探しが自分探しになるところなどは「虎と月」にも通じるところがあるかもしれない。楽しんでさらさら読めると思う。
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