「わたしがヴァレンタイン卿だ」
「ヴァレンタイン卿の城」ロバート・シルヴァーバーグ(佐藤高子訳) ハヤカワ文庫
惑星マジプールの首都ピドルイドの都を見下ろす場所で、放浪の旅人ヴァレンタインは、はしっこい少年シャナミールと出会った。自分が持っている金の価値も知らず、自分がどこから来て、どこへ行こうとしているのか、自分が何歳なのかも知らないヴァレンタイン。シャミナールに、そのあまりののん気ぶりをあきれられながらも、ヴァレンタインはその日暮らしの自分を決していやだとは思ってはいなかった。しかし、ジャグラー一座の仲間入りをしたヴァレンタインを夜毎に訪れる夢は、彼がこのような場所にいるはずの人物ではないこと、彼こそが城が岳のヴァレンタイン卿、マジプールの皇帝であることを告げていた。ヴァレンタインは、そして仲間たちはいったいどうすればよいのか?
惑星マジプールでは、若き<皇帝>が、<教皇>の後ろ盾で政治をつかさどり、<皇帝>の生母が<聖母>となって<眠りの島>から人々を見守る一方、バルジャジッド一族が世襲で<夢の王>となり、悪夢を持って悪人を懲らしめている。制度としては養子制をとっているが、実際に<教皇>と<皇帝>には血のつながりがなく、常に優秀な人物が<皇帝>として選ばれる。<聖母>も<皇帝>が交代すれば、その座を引く。そのため、<教皇><皇帝><聖母>はそれぞれに独立した権力を持つ一方、ある一族が権力を握りつづけるということはなく、マジプールの平和は保たれていた。ところが、ヴァレンタインを襲ったのは、妖術によって魂を入れ替えるという技であり、いま、ヴァレンタイン卿の肉体の中で非情な圧制をもってマジプールの民を苦しめているのは<夢の王>の息子、ドミニン・バルジャジッドだった。ドミニンが<教皇>となり、<皇帝>の座を弟に譲れば、<聖母>もバルジャジッドの母が選ばれ、マジプールの権力はすべてバルジャジッド一族の手に渡ってしまう。何もかもを失い、ときには自分が<皇帝>として復権しなければならない意味があるのかと問いながらも、ヴァレンタインは徐々にヴァレンタイン卿としての自覚を取り戻し、自分を信じる者たちを連れて、<ヴァレンタイン卿>であるドミニンに立ち向かう。
マジプールの豊かな自然、さまざまに異なる味わいの都市を旅しながら、徐々にヴァレンタイン卿の城に近づいていく冒険の物語。魅力あふれる登場人物たち、次々に襲い掛かる苦難。ひとりの青年の成長物語としても楽しめる。傑作SFです。オススメ。
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