「おれがおまえを誘わなきゃ、あの事件は起こらなかったと思う」
            
   「嘘」永瀬隼介 ポプラ社

 「わたし」、良樹は、三十四年ぶりに小学生時代を過ごした町に帰ってきた。そこには、四十七歳にしてすでに末期がんで死にかけているかつての友人、和也がいた。病室に和也を見舞い、ふたりは忘れえぬ十二歳の夏の思い出を語り合う。
 それは、色白で美しい少女、鷹野優が行方不明になるという事件から始まった。都会に家出したのではないかという憶測もある中、貧乏ゆえに苛められていたチュウこと小椋泰三が、優の居場所を知っているといって、ふたりを山の中に連れて行ったのだ。少年三人は山の中で一晩を過ごしながら、互いの暮らしや思いについて語り合う。貧乏ゆえに生じる悔しさ、悲しみ、他の誰に語ることもできなかった想いを、三人は共通の悲しみとして分かち合ったが、それでも口には出さない奇妙さはあった。チュウはなぜ優の居場所を知ってるのか。なぜ、それを大人たちには告げず、良樹と和也にだけ告げたのか。なぜ――
 物語は過去と現在を行き来することで、少年たちのその後の姿を描き出す。ガキ大将だった和也は、身一つで会社の経営者にまでなったが、未熟な息子を残して死にゆこうとしている。良樹は職を転々とした挙句、いまはタクシードライバーとして苦しい生活をしている。チュウはすでに亡くなって久しい。金持ちのぼんぼんでいじめっ子だった同級生も、バブル後の借金で自殺した。貧乏ではあったが、将来の夢を疑うことのなかった少年時代。あの日から、どれだけの日々が過ぎたことだろう。そしていまなお続く、嘘。
 まさかのラストに驚愕。読み返してみると、ちゃんと「それ」を匂わせる部分は多いのだが、うまく騙されてしまった。ミステリ、というよりは、ミスリードを楽しむ作品か。上手に騙されたい人に、オススメ。



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