廃虚となった東京、明日死ぬかもわからない命。でも最後まで悔いの残らないよう、一生けんめいわたしは生きたいと思った。
「ガラスのうさぎ」高木敏子 金の星社
もし、いま戦争が始まったら。まだ完全に大人になりきってはいない十二歳の少女にどのようなことができるだろう。主人公の敏子は世間の配給の様子や徴兵の様子などもよく知りながらも、なにもついていない下着に花模様の刺繍を試みる、そんな少女だ。長女だからと妹のために気をつかわなくてはならない日々から解放されるお正月を楽しみ、つらくても母や妹と別れて疎開して受験勉強のために一生懸命勉強する。そのままだったら、敏子はちょっとがんばり屋の、普通の少女にすぎなかったろう。
疎開先で耳にした東京大空襲。それにより母と妹を亡くし、また父娘で暮らせるようにと迎えに来てくれた父は、汽車を待っている駅で機銃掃射により命を落とす。目の前で父親を失った衝撃はどれほどだったことだろう。そのうえ敏子は特攻隊にとられた兄の代わりに、父の火葬のすべてをとりしきらなくてはならなくなるのだ。役場で埋葬許可をもらい、火葬用の薪を手に入れなくてはならない敏子。くたくたに疲れきって、敏子はついに真夜中、ふあーと吸いこまれるように海に足を進めてしまう。
けれど敏子は、死んではいけない、とみずからの気力を奮い立たせて生き抜いていく。
おそらく、敏子は戦時中に暮らした少女の中では裕福で恵まれた生活をしていたほうだと思う。金銭的にゆとりのある家庭に育ち、女学校に行かせてもらうことができたくらいなのだから。けれど、そんな少女が両親と妹をほとんどいっぺんに失ったとき、ただ泣くばかりでなく前向きに立ち上がってみせたがんばりは、読む者の胸を打たずにはいられない。戦争と、平和であることの意味を考えさせてくれる一冊。
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