「あたしたち、ずーっと前もきょうだいだったかもしれないんだね。同じものを見て懐かしく思うんだから、生まれる前の、別の人生の時も一緒にいたかもね」
        
  「上と外」 恩田陸  幻冬舎文庫

 楢崎練、中学二年生。両親の離婚により、祖父母のもとに預けられて生活している。考古学者の父はインディオの言葉で「木々の茂る所」という国で暮らし、母親の千鶴子(練との血のつながりはない)は父の賢と別れてからの新しい恋に夢中。妹の千華子は、そんな千鶴子に対して鬱屈を抱え、どうやらかなり傷ついているようだ……年に一度、ばらばらになった家族が集まる夏休みは、こんな風にいつもと違っていた。千鶴子の新しい恋を祝福するのではなく、千鶴子によって明らかにされた「千華子も賢の子どもじゃないかもしれない」ということばに傷つく三人。そして、そんな中、密林の上を飛ぶヘリコプターから練と千華子のふたりだけが放り出されてしまう。クーデターの勃発により、子どもたちを救い出しに行けないもどかしさに苦しむ賢、ほとんど意味不明な思考を繰り返す千鶴子。けれど子どもたちは思いがけないほどにたくましく、密林の中を進んでいた。地下に広がる遺跡、千華子を人質にとられた練が危険なマヤの儀式に参加させられるまでは。練は儀式を乗り越えることができるのか。千華子はどうなってしまうのか。
 おもしろい。次々に現れる謎、密林の闇。緊張感あふれる中に恩田陸らしさが仄見える、その緩急の妙。乏しい食事をわけあいながら、でも東京に戻ったってエコロジー女になんかならない、ジャンクフードをばりばり食べて残してやる、という千華子のたくましさ、夜、焚き火を囲みながら恋愛話って定番でしょ、とすました顔をするその可愛らしさ。こんなに都合よくたくましくていいのか、と思うかもしれないけれど、それでも、ある面ではどこにでもいるような兄妹。このふたりの言動で物語はいっそう面白くなっている。
 それでも……実は、千鶴子の常軌を逸した思考が実はかなり気にいっている。クローン人間って実はうじゃうじゃいるんじゃないの、だったら千華子の髪の毛さえあればいいんでしょ、と考える千鶴子は頭の中でこんなことまでいう。
「千華子を返してくれるんなら、何をやったって構わないわ。遺伝子組み換えた大豆だって喜んで買うし、毎日食べたっていい」
 ここにこういうことば(遺伝子組み換え大豆)が出てきちゃうのが恩田陸らしくていいなあ、とわたしが強く思う点なのである。




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