「二人とも大好きよ。メイにはあなたが見えてるわ、ペプシ。見えてるのがわかるわ。ママはふたりとも愛してる。二人ともこうしてここにいる」
「月の骨」ジョナサン・キャロル(浅羽莢子訳)東京創元社
「あたし」、カレンは幸福な生活を送っていた。いろんなことがあったけど、最終的には結ばれた心優しい夫、ダニー。彼と一緒にいればどんなことも怖くないし、どんなことだって笑って過ごせる。両親もダニーのことを気に入ってくれて、年老いた父親が少し弱ってきたことが気になるけれど、まだ大丈夫。そして幸せな妊娠。洗濯場で知り合ったゲイのエリオットは金持ちの大らかな青年で、あっというまにカレンともダニーとも親友になった。
その一方で、カレンは連続して不思議な夢を見るようになっていた。夢の世界の名前はロンデュア。そこでカレンは、帽子をかぶった犬や狼、息子のペプシとともに、5本の月の骨を探す旅をしているのだ。夢らしくとりとめのない部分と、夢にしては連続性のありすぎる部分を内包するロンデュアの物語。
カレンはいつしか現実と夢が微妙に混じり始めていることに、気づいてしまう……。
物語は幸せいっぱいのはずなのに、世の中にある不幸なんて、他人のものだけのはずなのに、いつしかそれが自分にむかって牙をむいてくる。最初の部分を読んで恋愛小説なのかと思ってしまうと甘いのである。ここまでするか、と、ラストには衝撃的に悲惨な事件が待ち受けている。
けれど、現実世界で、そしてロンデュアで、カレンはかつての自分ができなかったこと、愛され、愛しているがゆえの闘う強さを発揮する。その力強さが感動的である。
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