すべてはあの雪の中に眠っていて、真実は永遠に凍りついている。
             
  「追想五断章」 米澤穂信  集英社

 伯父の家に寄宿し、古本屋の手伝いをしている菅生芳光は、ある日、店を訪れた北里可南子という女性から、叶黒白という作家が書いた作品を探してほしいと依頼される。叶黒白とは可南子の父親のペンネームで、生前は建設会社に勤め、なんら小説など書くように見えなかった父が、かつて五つの作品を残したことを知った可南子は、なんとかしてそれらを手に入れようとしていたのだ。一般の流通経路には乗らず、同人誌のようなものに掲載されていた作品を入手することは困難だと思われたが、金に困っていた芳光は、伯父には内緒でその仕事を引き受ける。しかし、作品を手に入れるために少しずつ知った叶黒白――北里参吾の物語は、ベルギーで妻殺しの汚名を着せられた一人の男の苦悩だった。叶うことなら、黒白はっきりつけたい……五つの断章には、そんな思いが込められているのではないか。悪趣味とも思えるリドルストーリー。可南子の手元に残された、ただ一行の結末。参吾は何を残したかったのか。そして、可南子が本当に知りたいこととは何か。
 全体の雰囲気がとにかく暗い。バブルがはじけた後の時代を描いているのだが、主人公の芳光といい、伯父の古本屋といい、すべてがやる気をなくし、どんよりと濁っている。考えてみれば、米澤穂信の登場人物たちは、どちらかというと積極的に他人とかかわっていったり、社会に興味をもったり、というタイプではなかったのだが、それでも、古典部や小市民シリーズにおいては、外部から人がやってきて、主人公たちをそのよどみからひっぱりあげてくれる形になっていた。それが、登場人物が全員どよ〜んとしていると、こんな作品になるんだなあ……と。帯によれば
「米澤穂信が初めて『青春去りし後の人間』を描く最新長編」
 ということなのだが、むしろ主人公のタイプはこれまでどおり。周囲にどんな人間がいるか(いないか)という部分のほうが大きな違いのような気がする。
 ともあれ、本を探すという趣向はなかなかに面白い。



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