そうすることで多くの命を救うことが出来るという前提があれば、一個の命を断つことは妥当だろうか。
「反逆の星」 オースン・スコット・カード(田中一江訳) ハヤカワ
三千年前、一握りの科学者たちが共和国体制に反逆し、流刑された。その惑星の名はトリーズン。金属といえば銀しか取れず、反逆者たちの子孫は宇宙船を造るだけの鉄を求めて、自分たちの技術を、肉体を、理論を、共和国へと売っていた。
遺伝学者ミューラーの子孫、ミューラー一族は、己の肉体を改変し、ちょっとやそっとのことでは死なない肉体を作りあげた。しかし、その代償は過剰再生。王家の世継ぎであるラニック・ミューラーは、思春期をすぎても異常な再生がとまらず、世継ぎの地位を追われてしまう。やむなく流浪の旅に出たラニックが見た、トリーズンの姿とは。
哲学者、地質学者、理論物理学者、社交界の淑女。さまざまな先祖の特性があって、ただそれだけを一途に伸ばした子孫がいる。そんな惑星を想像してもらいたい……すごいじゃないか。ラニックの前に現れる新たな一族のそれぞれに、ともに目をみはること間違いなし。
鉄さえ手に入れれば、惑星を統一することも可能である。わずかな鉄を求めて互いに領土を侵略しあい、闘いあう一方で、そんなことにはまるで関係なく己たちだけの世界で生きている一族もいる。だが、人を殺さないことは、ただそれだけでいいことなのか? 他人の苦しみを見過ごしているということにはならないのか。ラニックが選んだ行動の是非を、彼とともに、考えてみたい。初期カード作品として、作者のテーマがよりわかりやすい形で前面に出ているともいえるだろう。
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