「人間? おじさんは、あの入植者たちを、人間なんて呼ぶ気?」
「そうだ。人間だ。わしらと同じく。そういうことがわかって、ほんとにがっかりしたよ。やつらを見て、わしら人間てのは、その気になりゃあ、どんなことだってしでかすものだと、わかったからね。わしらだって、ああならんとは言いきれん」
「ぼくたちの砦」 エリザベス・レアード(石谷尚子訳) 評論社
ラーマッラーに住むパレスチナ人の少年、カリームの夢は、サッカー選手になること、かっこよくて人気者でハンサムになること、パレスチナを解放する「国家の英雄」になること……。なりたくないのは、父さんみたいな店の主人、背の低い人、背中を撃たれて一生、車椅子で暮らすこと、死ぬこと……。
育ち盛りのカリームは、外に出てサッカーをしたり友だちと遊んだりしたいのに、しょっちゅう外出禁止令が出て、うっかり外に出ることもできない。窓から顔を出しただけでも、兵士に撃たれてしまうかもしれないからだ。テレビではいつも、パレスチナ人とイスラエル人の銃撃戦の様子を流している。パレスチナはカリームたちの先祖代々の土地なのに、入植者たちが我がもの顔でのさばって、大切なオリーブ畑に行くこともできやしない……。
そんなある日、カリームは難民キャンプで暮らすポッパーという男の子と仲良くなった。これまで親友だったジョーニとは違い、ポッパーは貧しく、無鉄砲で、野性的なところのある男の子だ。カリームとポッパーは、それまで廃物が置かれていた場所を、自分たちの砦にするべく綺麗に片づけ始める。いつしかそれにジョーニも加わり、カリームにとっては楽しくて仕方のない日々が続くように思われたが……
パレスチナに暮らす少年の日常を描いた作品。ごくあたり前のように、テレビで銃撃戦の模様が流れ、町のあちこちに戦車の姿が見える。そんな中でも、携帯電話で友人とおしゃべりし、女の子に夢中になる兄を馬鹿にしたように眺め……と、男の子の生活はどこでも同じだ。カリームの生活が生き生きとしているからこそ、かえって痛々しい面も見える。遠い国、けれど昔ではなく、たったいま、同じ地球にこんな生活をしている少年がいるということを、考えさせられてしまう。
作者はあえて、パレスチナの少年とイスラエルの少年が仲良くする、といった物語にはしなかったのだという。なぜなら、そんなことはあり得ない……それが実情だから、と。さまざまなことを考えさせられる作品である。
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