「俺、ほんまは子どものころから、めっちゃ野球好きなんや」
「うそやろう?」
「これがほんまやねん」
「戸村飯店青春100連発」 瀬尾まいこ 理論社
戸村コウスケ、弟。密かに心寄せていた同級生、岡野に兄貴宛てのラブレター書きを手伝わされている高2の春。卒業式が終われば兄貴は東京に進学。長男のくせに店の手伝い一つしたことのない兄貴は、小説家になるからといって東京に行ってしまうのだ。何考えてるのかさっぱりわからない兄貴へのもやもやはあるが、店を継ぐことに違和感はない。何事にも器用な兄と違うんだから、自分はこれでいい、と思っている。
戸村ヘイスケ、兄。家を出るために、とにかく専門学校を選んだ。ただ、それだけ。やりたいことは特にない。だからそのうち専門学校もやめるつもりで、バイトとしてカフェの手伝いに入ることになった。家にも、店に来る人たちにもなじんでいないように思われていたけれど、実はどうやっても空回りしていたのが本当のところで、どんなときでもうまくやれていた弟をうらやましく思ったりもしている。本当は野球が好きなのに、周囲には都会ぶって野球なんて嫌いなんだろうと思われている。本当は父のあとをついで料理をやってもいいと思っていたのに思いがけず不器用でうまくいかないのを、家を継ぐのをいやでわざと失敗したと思われている。
……そう。実は、生き方が不器用なのは弟よりも兄のほうだったりするのだ。
物語は、店に残されてしまった弟が思いがけない展開を迎える関西編と、家を離れた兄が初めての経験を積むことでだんだん生きやすくなっていく東京編とが交互に語られることで進んでゆく。弟にとって兄貴はつねに要領よくちゃっかりしている存在だ。でも兄は兄で、実は……という部分があるし、弟に対しての羨望もある。
兄弟ってこういうものなのかもしれない。お互いにとてもよくわかっているようで、わかっていない。わかっていないようで、わかりあっている。それは実は親も同じで、父親から兄貴にあてたメモ(?)など感動もの。
それにしても、東京に来た兄貴が、本人は大まじめなのに「関西人」だからといってウケをとっていると思われるシーンや、自分勝手に青春している古嶋など、笑いどころも満載。手軽に読める作品。オススメ。
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