「なんでこんなことをするんだ、グレゴリー? くそ! なんでだ?」
彼が私をグレゴリーだと思っていることがわかったので、私は否定の身振りをした。
「私はグレゴリーではありません。彼の兄弟のジョルジュです」
「鉄の薔薇」 ブリジット・オベール(堀茂樹訳) ハヤカワ文庫
ジョルジュ・リヨンは、愛する妻、マルタには自分が国際経営コンサルトであると偽っていたが、その本職は銀行強盗。今回もまた、ブリュッセルで他3人の仲間とともに下見をしていたジョルジュだが、思いがけずその地でジュネーブにいるはずのマルタを見かけてしまう。夫である自分が見たこともないスーツに身を包み、黒髪を赤毛に変え、知らない男と腕を組んでいるマルタ。しかし、嫉妬に身を切られるような思いをするジョルジュが電話をかけて確認すると、マルタが応対。ジョルジュは自分が見たのはマルタによく似た別人であると無理やり自分を納得させる。だが、そんなことが続いたある日、自宅にかけても、マルタの母親の家にかけても、同じようにマルタが出てくることに気づき、疑惑を深めたジョルジュは、マルタが何らかの理由で自分を偽っていることを確信する。一方で、彼の銀行強盗仲間も分裂していた。裏切り者の罪をなすりつけられ、真相を明かそうと動きまわるジョルジュの前に現れた影。それは、幼いときに死んでしまったと思っていた双子の兄弟、グレゴリーだった。周囲の人々はみな、ジョルジュこそグレゴリーだと思い、彼を狙っていたのだ。自分がグレゴリーでないことを証明しなければならない。そして、出来れば生き別れになっていた兄弟と再会したい。グレゴリーが命を狙われることになった原因、ヨーロッパを震撼させかねない秘密に迫りつつ、ジョルジュがついに見つけた真相とは。
謎また謎の息詰まる展開に目が離せない。妻の裏切り、銀行強盗仲間の裏切り、誰が敵で誰が味方なのか、自分自身でさえも信じられない17日間がスピーディに描かれている。どんでん返しに次ぐどんでん返しはオベールの得意とするところだが、最後の結末にはあっと驚かされるこということなし。絶対のオススメである。
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