レスリーは友人以上のものだった。いってみれば自分の分身、自分より感動的な分身であり――テラビシアと、そのさきにあるすべての世界へつれていってくれる道だった。
「テラビシアにかける橋」パターソン(岡本浜江訳)偕成社文庫
おしゃれにばかり気を取られている姉ふたりに、甘ったれでうっとうしい妹ふたり、女ばかり4人のあいだにはさまれた男の子ジェシー。5年生の中でかけっこが一番になりたくて夏のあいだじゅう走りまわったり、とうさんに絵かきになる夢を否定されても大切な絵を描き続けたりして日々を過ごしていたジェシーの前に、ある日、レスリーという女の子が現れる。レスリーの両親は都会の生活を捨てて、お金なんか問題ではないと考えて農場暮らしを選んだ人たちだ。ジェシーにとってはお金が問題でない人なんて想像を絶していたし、レスリーについてもよくわからないことがたくさんある。でも、いつしかジェシーとレスリーはこころを通わせ、たがいにとってただ一人の大切な友人同士となる。
そんなふたりがもっとも大切にしていたのは、テラビシアと名づけた魔法の国だった。そこでジェシーはレスリーからさまざまな本の話を聞く。ナルニアやハムレットや白鯨。レスリーの口から語られる豊かな物語は、ジェシーのこころの中に大きな絵を呼び起こす。いつかレスリーの語る物語を本にして、その挿絵を描いてみたいと想像するジェシー。
想像力豊かな女の子の手引きで、魔法の国への扉をひらいた男の子の物語。子どもにしか見えない大切なこと、大切なもの。レスリーが教えてくれたこと。けれどある日、その夢の国は残酷な終わりをむかえてしまう……
扉の献辞は、作者から息子のデビッドと、デビッドの仲よしだったリーサにあてたものである。この物語を読み、作者のあとがきまで読んで、ふたたび献辞にくると、なんだか胸がいっぱいになる。大切な友だちの名前を加えてほしいと願ったデビッドのやさしさがしみる。
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