私は否も応もなく十才のガキに雇われてしまった。
                
「少年の見た男」(「天使たちの探偵」所収) 原ォ  早川書房

 梅雨どきの昼下がり、渡辺探偵事務所にやってきた10才の少年は、5枚の1万円札を出して、ある女性を守ってほしい、と、<私>沢崎に依頼した。ガキの金など受け取る気もなかったが、敵もさるもの、まんまと依頼主におさまってしまい、仕方なく沢崎は、少年から依頼があった西田サチ子という人物を追うことにする。なにごともないように思われた調査だが、思いがけない銀行強盗事件に巻き込まれたことから、事件は意外な展開を見せる。
 短編集。
 下は10才から、やや年齢がいっているかもしれないが、まだまだ精神的には幼い大学生くらいまでの少年少女が出てくる、という点で共通した連作短編集になっている。大人になりきれていない彼らの非常識ぶり、「幼さ」といった部分に、沢崎がまっとうに切り込んでいく姿が見所。説教をするわけでもなく、大人ぶっているわけでもない。ただ、大人の男としての常識的な意見を述べるだけなのだが、それが少年の胸にはどう響くのか。
 沢崎は決して少年少女に同情的、共感的なわけでもなく、どちらかというとうっとうしそうに行動しているわけであるが……「天使たちの探偵」というタイトルが示すように、その視線はどこか優しい。他の原作品を読んでいればもっと楽しめるとは思うが、逆に、入口としてこの短編から始めてもよいかもしれない。オススメ。



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