「早く、大人になりたいです」
「急がなくても……死ななければ、大人になるって」
               
「ショートソング」 桝野浩一  集英社文庫

 ハーフの美少年でイタリアからの帰国子女なのに、内気でダサい格好ばかりしている国友克夫。憧れの舞子先輩にコーディネイトしてもらった服で連れて行かれたのは、デートではなく短歌の会だった。初めてのことでどきどきしながらとりあえず作ってみた短歌は、酷評と称賛を同時に受けるが、誰よりも克夫の短歌を評価してくれたのは、メガネの似合う天才歌人、伊賀だった。だが同時に、克夫は伊賀と舞子が付き合っていることにも気づいてしまう。女性と付き合ったことのない克夫には想像もできないほど、伊賀はプレイボーイだったのだ。
 一方、天才歌人として早くから名を売り、次から次に女の子をとっかえひっかえしている伊賀は、適当につきあってきた舞子が連れてきた美少年が驚くほどうまい短歌を詠んだことに刺激を受ける。だが、それは短歌の才能に衝撃を受けたのか、それとも国友の外見に衝撃を受けたのか……短歌指導と称して国友と会っているうち、この年下の美少年をからかう楽しみを発見してしまい、そんな自分はホモではないかとも疑ってしまう伊賀。
 物語は、そんな国友と伊賀、双方の視点で、彼らと周囲の人々のかかわりや、日常風景が短歌をはさみながら描かれる。
 国語の教科書くらいでしか短歌なんてふれる機会はなかったのだが、こんなにもいろいろな短歌があるんだ! というのが、まずは驚きのひとつ。
 僕が生まれた頃に河出書房新社という有名出版社から発売され、大ベストセラーになった『サラダ記念日』
 という一文にもびっくり。
 そうか、「サラダ記念日」はいま大学生の人たちが生まれた頃にベストセラーですか! あれからかれこれ二十年。現代口語短歌って、こんなにも増えていたんですね。
 日頃知る機会のない短歌というものにふれることもできるし、お年頃の男の子の揺れる気持ちなどを読む楽しみもある。なかなかに贅沢な一冊である。



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