「あれは何だ?」
「パソコンだ」
「ソロバンだ」
「伝票照合器だ」
「接待代役だ」
「いや、スーパーサラリーマンだ!」
            
「スーパーサラリーマン」 草上仁 早川文庫

 明日朝一番の会議のために修正を入れ、用意しなければならない資料。ところが真夜中近くなっても、部下に任せておいた資料もフロッピーディスクも見つからない。えんえんさがしまわった挙句……ようやく見つかった資料とフロッピィディスクにコーヒーをこぼしてしまった。ああ、これで会議はできない。誰か、助けてくれ……。
 そこに現れたのは、近頃では誰も着ていない、ドブネズミ色のスーツ、厚い黒ぶち眼鏡、エンジ色のネクタイをしめ、黒のアタッシュケースを持った貧相な中年男。しかし、彼こそはスーパーサラリーマン。コーヒーに濡れたフロッピィディスクを水洗いして再生し、修正箇所をてきぱき片づけ、さらにこれまでなかった比較グラフまでつけてくれた。
 合わない伝票、在庫照合、接待マージャン。山積みする事務仕事に、販売ノルマに、生産効率悪化に押しつぶされそうな誰かのために、今日もスーパーサラリーマンが空を行く。
 サラリーマンSF短篇集(笑)。次々に勝手な理由で会社を辞めていく部下を持つ上司の悲哀「辞めさせて頂きます」、地価高騰のあおりをうけて、同一のテナントを会社とスナック簡易ホテルで共有する「同居時代」、その他の作品も、どれも主人公はいわゆるふつーのサラリーマンである。
 草上仁といえば、日曜SF作家として、平日はサラリーマン、土日は作家の生活をしていたことで有名だった(さすがにいまは作家だけになったんだろうか。最近チェックしていないから知らないけど)。知りぬいた世界だけに、なんとも細部で笑わせてくれる。ミステリーやホラーっぽい話もある。楽しんで読める短篇集。




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