初めに言葉ありき、
その言葉は「うわあああ!」なり。(海賊記 13:7)
「反★進化論講座:空飛ぶスパゲッティ・モンスターの福音書」
ボビー・ヘンダーソン(片岡夏実訳) 築地書館
2005年、アメリカ・カンザス州教育委員会が、公教育において進化論とインテリジェント・デザイン(知的デザイン/ID)説を同時に教えなければならないという決定を下そうとしていた。IDとは、生物の複雑さは進化論では説明できず、「なんらかの知的存在」がデザインしたのだ、という説である。ID論者は「知的存在」をキリスト教の神であるとは明言せず(でないともいわず)、ID説は宗教ではなくあくまでも科学的仮説であると主張する。で、もちろんそれのどこが科学的なんだ、という強い反対が科学者や教師を中心に巻き起こったわけだが、その最中に立ちあがったのが、物理学の学士号を保有し、空飛ぶスパゲッティ・モンスターの顕現を得てスパモン教の預言者となった著者、ボビー・ヘンダーソンである。彼はカンザス州教育委員会に手紙を出し、進化論、ID論と同時に、スパモン教も高校の生物の時間で教えるべきだという説を述べた(その手紙は本書に掲載されている)。なぜならスパモン教も「科学的仮説」に基づいているのは、この本を読めばいうまでもないことである!
ID論者が述べるところのいわゆる「科学的仮説」を逆手に取って、スパモン教を構築した見事な手腕は爆笑に値する。ゆるい道徳規準と、ビール火山とストリッパー工場のある天国。パスタファリアンたる一流の科学者による数々の証明……ひとつにはスパモンによって選ばれし民、海賊の減少が地球温暖化、地震、ハリケーンなどの自然災害を引き起こしたことを地球の平均気温と海賊数の対比グラフによって証明し、あるいはまた、スパモンこそが唯一の神であることを神学代数によって証明する。
データに隠された嘘を見抜き、でっちあげの仮説を反証するためのリサーチ・リテラシーが身に付くばかりでなく、この本は参考文献の引用法もきちんと(?)していて正確だ。論文の書き方を学ぶためにも、これを参考にできるかもしれない!
深く考えずに楽しく読んで、しかもインチキ科学に騙されない手法が身につく本。さあ、あなたも空飛ぶスパゲッティ・モンスターと運命的な出会いを! ラーメン。
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