「だいたいお前さん達は想像力ってもんが足りなさすぎるよ、新聞や雑誌にひょいひょい乗せられて、やれ空飛ぶ人だ空中散歩者だってはしゃいでるんだから――もう少し頭使って自分の考えで物を云いなさいよ」
          
 「空中散歩者の最期」(「日曜の夜は出たくない」所収) 倉知淳 創元推理文庫

 自殺他殺はともかくとして、高いところから落下したと思われる死体。簡単に片付けられると思っていた事件だが、解剖の結果は20メートル以上の高さから落ちたもの。しかし、周囲のビルはどれも10メートル前後しかない……彼はいったいどこから落ちたのか。空中遊泳を楽しんでいた鳥人が落下したのか、それとも? 霧の彼方の謎に猫丸先輩があっと驚く解答をもたらす。
 小柄な身体にだぶだぶの上着、長い前髪を眉の下までたらし、その名のとおり猫のような丸い目をした猫丸先輩。人懐っこいのか傍若無人なのか、飲み屋での会話に口を挟み、後輩の恋愛話に嬉々としてついていく。調査はしないので、安楽椅子探偵のパターンに入れてもいいのかもしれないが……この小説の驚きは、実は「あとがき」のような形で付け加えられている二篇、「誰にも解析できないであろうメッセージ」と「蛇足――あるいは真夜中の電話」にある。
まかり間違っても最初に読んではならないこの二篇で明かされる、凝りすぎとも思われる仕掛けの数々。改めていわれなくても見破っていたものもあるのだが(書いてもいいかな……脇役がバトンリレーになっている。連作短編集の、脇役が必ず次の小説にもさりげなく登場するようになっているのだ)、いくらなんでもこれが「結婚祝い小説」になってるなどと、誰が見破れようか。
とはいえ、おもしろい。また、あえてそうしたのだろうがトーンがばらばらである、というのも見事。肩の凝らない推理小説である。



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