太陽に噛みつくな、さもなくば舌を焼き切らん。わたしは何の救いもなく、絶望的に噛みつき続けた。そしてやけどを負ったのだ。わたしは焼き尽くされた。今のわたしは燃えかすでしかない。
「バイティング・ザ・サン」 タニス・リー(環早苗訳) 産業編集センター
フォー・ビー。砂漠の中にそびえる三つの巨大ドーム都市のひとつ。安定化した電子ウエイブ網の下に存在し、ドーム外側に広がる惑星の災害から守られ、人間に奉仕する擬似型アンドロイドによって管理された清潔で安全で完全な都市。人間はそこで生まれ、育つが、「ジャング」と呼ばれる青年期、「大人」と呼ばれる成熟期に死ぬことはない。何度「自殺」を図っても、ロボットたちがふたたび新しい肉体を与えてくれるからだ。だからジャングたちは自分の身体に飽きると「自殺」して、また新しい肉体を得ようとすることもある。性別も外見も思うがまま。誰もが憧れるような美女となることも、怪物となることも自分次第。
主人公は「わたし」、ジャングの少女。同じ「サークル」のハーゲルは何度も自殺を繰り返し、彼女に愛をささやくハッタはつねに怪物の姿をしている。そして、美しいダナは彼女の目の前で窓から飛び降りる。何もかもがうまくいかない。うんざり。「わたし」は年齢を変更して「大人」になることを望み、「仕事」を得ることを望み、「子ども」を作ることを望むが、それらは擬似ロボットによって次々に否定され、彼女自身も愚かな行動によって二度と子どもを作ることを許可されないこととなってしまう。満ち足りた世界で感じるこの倦怠感、焦燥感の理由は何か。そしてついに、ある出来事がきっかけとなり、「わたし」は都市からただひとり追放されることとなってしまう――
タニス・リーのSFに出てくる女の子たちは、みな臆病で傷つきやすく、周囲になじめない気分を抱えているが、芯にはとてもタフで前向きな心を持っていて、それがある日、力強く花ひらく。「太陽に噛みつく」のだ。
「あまりにも決定的で不可避で、残酷で味気のない、そしてあまりに絶望的な悲劇。あまりにもちっぽけで味気なく、あまりにも不運すぎて、悲劇とすら呼べないかもしれない」
誰もが従順に受け入れている運命に逆らった少女が知った、都市の姿、そして真の幸福とは。
ジャングたちの用語など、最初はとっつきづらいかもしれないが、それに慣れればあとはぐんぐん読み進められる。さすがタニス・リー。安定したおもしろさがあるし、もちろん恋愛小説としても抜群。
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