なんどひとに騙されようとも、なんど痛い目をみようとも、結局は人間を信用しなければなにもできないではないか。全く人間を信用しないでなにかやるとすれば、山の中の洞窟にでも住んで眠るときにも片目をあけていなければならなくなる。
                
 「夏への扉」ロバート・A・ハインライン(福島正実訳)
                                         ハヤカワ文庫


 1970年12月。恋人と親友に裏切られ、仕事も取り上げられ、なにもかもを失ってしまったぼくは、夏への扉を探し、冷凍睡眠で30年未来の世界へと旅立つことを決意する。相棒である猫のピートが、冬になると必ず、家に11もある人間用のドアのどれかひとつが夏につながっていることを信じてぼくにドアを開けさせ夏への扉を探すように、未来には夏があることを願って。けれど……
 主人公の「ぼく」、ダン・B・デイヴィスは発明に関しては天才的なのだけれど、とにかくひとがよくて信じている人たちにつけこまれてしまうはめになる。ハインライン独特のユーモアあふれる語り口でなければ、かなり悲惨な話かもしれないと思えてしまう部分もある。けれど、だからこそ……ダンが他人を信じつづけ、前向きに取り組んでいく姿勢が感動的なのだろう。ダンのようなタイプが気に入ったというひとは、ぜひハインラインの他の作品「人形つかい」や「月は無慈悲な夜の女王」「レッド・プラネット」などなども読んでもらいたい。ついでにいえば、この作品におけるピートの描かれかたは猫好きにはたまらないに違いない。猫好きには絶対のおすすめ。
 さて、1970年から30年といえば、ちょうど今年、2000年である。当時のSF作家にとって(誰にとっても)2000年は遠い遠い未来だったことを思うと、ここに描かれている未来世界と現実を比べてみるのも、なかなかに感慨深い体験だ。




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