「それにしても、この文字の形には興味をそそられる。私にとってはこの昴という文字が、そのまま伝説のようなロマンを感じさせるよ」
「星は、昴」 谷甲州 ハヤカワ文庫
38光日の宇宙空間を挟んで、ふたりの研究者が会話をしている。星のこと、神話のこと、言葉について――送られてくる言葉は38日前のもの。即座に答えたとしても、相手に伝わるのは38日後のことだ。通常の会話は成立しない。けれどふたりは、古い記憶を掘り起こしながら、そして短いテーマを語ることによって、上手に会話を続けていた。顔を見たこともない相手と、宇宙の闇という孤独の中ではぐくまれる友情。そんなある日、「私」は会話の相手、ターナー博士の声が光速を超えて届けられてきたことに気付く。なぜそのようなことに? 魅力的な発見に、ターナー博士には告げずに観測を続ける「私」だったが……――最後の「私」の台詞に思わず涙。
これを連作短編集とは呼べないのだと思う。だが、時間を超えた存在といったものや「情報」の描き方などで、いくつかの話にはつながりがあるように見える(そのあたりは、ぜひ読んで実感してもらいたい)。
表題作「星は、昴」をはじめ、「フライデイ」などせつない話もたっぷりあって……で、どうして「敗軍の将、宇宙を語らず」なんて話があいだに入っちゃうのか(笑)。ある意味ではまとまりのある、そしてある意味ではまったくまとまりのない、超ほら吹きSFが混じっているこの短編集。なにせ「敗軍の将、宇宙を語らず」に至っては、農業用ブラックホールなんてものが登場しちゃうのである。かつての戦争について大法螺を吹きまくる老人……
「とにかくじゃな、わしは自慢の研究成果をいかさんものと、群がる敵に向かって、小脇にかかえたブラックホールをちぎっては投げちぎっては投げ――。
ええい! うっとうしい奴じゃ! これも言葉の綾で、ただの比喩じゃ! いちいちたしかめんでもよいわ」
爆笑。水樹和佳の解説によれば、この「SF版ほら吹き男爵」じいさんは谷甲州本人と95%重なるそうである……
気楽にSFを愉しみたいむきにはオススメの短編集。
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