「それがあの子なんだよ。悪気なんてまったくないんだ。確かにちょっとずれているかもしれない。でも、悪気があってやったことじゃないんだよ。それがあの子なんだ」
                 
「スター☆ガール」ジェリー・スピネッリ(千葉茂樹訳) 理論社

 ハイスクールの二年生が始まった新学期、マイカ・エリア・ハイスクールには同じことばがささやきかわされていた。
「あの子には、もう会った?」
 いったい誰のことだろう。「ぼく」、レオ・ボーロックの疑問はすぐに明らかにされた。スターガール。靴まで隠れるロングドレスを着て、背中にウクレレを背負っている。ひまわりの絵のついた大きなキャンバスバッグ、まったく化粧っけのない顔に大きな目。肩にはねずみを乗せている。誰かの誕生日がくればその人のために歌い、数学のクラスでは二等辺三角形の歌というのを作って歌った。これまで学校に通ったことがなかったという彼女の言動は一から十まですべてが変てこで、けれどそれが魅力的であったことも事実だった。しばらく誰からも相手にされない日々が続いたあと、スターガールは突如として学校一の人気者になった。誰もが彼女のように素直に喜びを表し、ブランドの服じゃなくても気にしなくなり、他人のために手を差し伸べた。けれど、良いことがいつまでも続くわけじゃなかった。スターガールの個性はみんなが考えていた以上に独特で、チアガールなのに敵のチームまで応援してしまうほどだったのだ。打って変って学校じゅうのみんなから無視される日々。レオはそれと知りつつスターガールと恋に落ち、彼女と一緒にいることで自分までもが無視される現状に苦しむ。
 彼女か、みんなか。どちらのほうを愛しているのだろう、どちらに愛されたいのだろう。答えのない問いに悩むレオが出した答えとは、そしてスターガールは……――
 個性的で魅力的な女の子が、「みんな」と一緒になれないために浮いてしまう。そんな彼女を見守り、けれど「みんな」の一員でもいたいと願うレオの複雑な心の揺れもせつない。レオを好きなあまりに、スターガールもまた「自分自身」と「みんな」のあいだで揺れる。
 全米書店員が選んだ「いちばん好きだった小説」。たぶん誰もが一度はスターガールにあこがれ、スターガールの傍によりそった時代があったのだと思う。



「ラブ、スター☆ガール」
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