「わたしはもう、コケにされるのはまっぴらや。負けっぱなしはごめんやねん。わたしもう四十六や。残りの人生、勝ち組に回ったるんよ。そう決めたんや」
「葬列」 小川勝己 角川文庫
ラブホテルでフロント兼客室係として勤務する明日美。数年前、悪質なマルチにひっかかったことが原因で、いまは障害を抱える夫とともに慎ましやかな……最悪な貧乏生活を送っている。そんな彼女の前に、かつてともにマルチ商法をしていたしのぶが現れ、「一緒に現金輸送車でも襲わへん?」と持ちかけてくる。一度は断った明日美だが、ひょんなことをきっかけに、銀行強盗の下見をしていた藤波渚と知り合い、三人は拳銃さえ手にはいれば完璧だという計画を立て始める。
一方で、下っ端ヤクザとして情けない生活を送っていた木島史郎は、これもまた追いつめられてヤクザの跡目抗争に巻き込まれ、最愛のひとり娘を失い、自暴自棄になっているところを、三人の女と巡りあう。そして四人は戦争をはじめた――
どん底主婦たちの犯罪、といえば「OUT」。ヤクザの抗争といえば「仁義なき戦い」。実際、解説にもあるのだが、横溝正史賞受賞の本書は、選評で「OUT」との類似点が指摘されたらしい。とはいえ、この「葬列」から鮮烈に立ち上ってくるのは生々しい生活感だ。「OUT」に見られたような主婦の心の闇の深さというよりも、具体的に人間がもっている欲望や、裏表があって情けない薄っぺらさ、そんなものだ。だからこそ、かえって強烈にキャラクターたちが迫ってくるといって過言ではない。
それにしても、すごい。明日美と史郎の視点で語られることが多いので、このふたりが主人公かとも思えるのだが、キャラクターの強烈さではしのぶと渚が一枚も二枚も上手である。脇役も思いがけない側面を見せるので油断できないし、ラストの一行、この爽快さ。
むちゃくちゃに破綻していく作品が読みたいむきにはオススメの一冊である。
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