「きみと一緒に育ちたかったよ。きっとすばらしい兄弟だったろう」
           
「運命の息子」ジェフリー・アーチャー(永井淳訳) 新潮文庫

 幼なじみのスーザンとマイケル。幼い角のつきあいから始まり、卒業パーティでの「初めての出会い」ともいえるお互いへの愛情から結婚したふたりは、幸福の絶頂の中で双子を授かったことを知る。だが、ナサニエルとピーターと名づけられるはずだったカートライト家の男の子たちには、数奇な運命が待ち受けていた。同じ日、富裕な実業家の妻であり、病院の創設者の娘であるルース・ダヴェンポートも男の子を出産したのだ。そして、生まれてすぐに失われたその男の子――フレッチャー・アンドリューとピーターが、思いつめた善意によって取り替えられてしまう。真実を知るのはただふたり、フレッチャーの乳母となるミス・ニコルと、ドクターのみ。そして、ふたりの少年は、互いが双子の兄弟であることを知らないまま成長する。だが、運命の輪は幾度となく彼らを接近させ、ついにふたりはコネチカット州知事を競うこととなる。
 ジェフリー・アーチャーお得意の「サーガ」もの。ふたりの少年の友情、初恋、仕事、さまざまな場面での苦難や喜びをともなった成長ぶりが交互に描き出されている。生命保険セールスマンの家で育ったナット・カートライトと、富裕な家のひとり息子として育つフレッチャー・ダヴェンポート。境遇こそ違え、彼らは誠実で献身的なリーダーとして認められてゆく。参謀役の友人が傍に控えているという安心感もある。そして、なにより――ナットにおいては学校時代から、フレッチャーさえもが就職先で出会うことになってしまう、敵役のラルフ・エリオット。自らを売り出すためにはどんな汚い手をも使う彼が、彼らの人生のさまざまな場面において最後まで重要な位置を占めていて見逃せない。

 それにしても、服役中にも獄中記を書いていたほどのジェフリー・アーチャー。まだまだ楽しませてくれそうである。



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