「あの人には、銃を欲しがってもおかしくない事情があるんです」
「スナーク狩り」宮部みゆき 光文社文庫
関沼慶子がその結婚式に行ったのは、出席するためでも、ましてや自分が花嫁として祝われるためでもない。自分を利用するだけ利用して捨てた相手、国分慎介に思い知らせてやるためだ。だが、散弾銃を抱えた彼女の前に立ちはだかったのは、慎介の妹で、慶子に同情的な範子だった。範子と出会ったことで力を失った慶子は家に帰るが、そこには、彼女が銃を持っていることを知って、その銃を手に入れるために待ち構えていた近所の釣具店の店員、織口がいた。織口はなぜ銃を必要としたのか? その事情を知る同僚の佐倉修治は、なりゆきで範子とともに織口を追うことになるが――
銃という力のあるものを得て、人が変貌する。否、変貌するように見えて、実は何も変わっていないのかもしれない。銃など持たずとも、醜いものは醜く、卑しいものは卑しいのだから。銃を手に入れても、毅然として人間らしく生きられるものもいるのだから。
ひとの悪意に傷つけられた人たちが、思いもかけない出会いを通じてつながりあう不思議。それは、ヒッチハイクしていた織口を何も知らないまま乗せた親子、神谷尚之と竹夫の親子にもいえることだ。だが、それは決して癒しではない。そんな風に甘っちょろく終わらないところが、宮部みゆき作品のすごさなのかもしれない。
「スナーク狩り」という奇妙なタイトルの理由は、最後にわかる。
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