同じ音が耳に谺して踵を通り抜け、共鳴が神経の末端まで達し、引きながらも神経系統を愛撫される快い感覚の余韻を残していった。
「クリスタル・シンガー」 アン・マキャフリイ(浅羽莢子訳) ハヤカワ
マキャフリイの描く女性は、好き嫌いが大きくわかれるタイプが多い。中でも、この作品の主人公キラシャンドラ・リーほど議論の対象になる自分もいないだろう。なにせ訳者があとがきで「虫が好かない」などと書いてしまったために、嫌いなら訳すななどという手紙をもらってしまったらしいほどなのだから。
さて、ではこのキラシャンドラはどういう女性かといえば、二流になるのは我慢がならない、なんにでも一流、一番でなければ、ってんで、ソロ歌手になれないとわかった途端にそれまで人生の全てを捧げてきた音楽院での勉強を一瞬にして捨て去ってしまう。クリスタル・シンガーになるときにも、他人が苦しんでいるところをあっさりとクリアし、才能と運に恵まれていたおかげで金額の高い黒クリスタルを初の切り出しで手に入れることに成功。ギルド会長のひいきもあって、物事はすらすらと進む。己のほしい物のためには地位を振りかざしていくらでも高慢になれ、自分を抑えて振る舞うときには常に打算が働いている。
うわー、やなやつ。
と、思うかもしれないのだが、世界がしっかりとしているのと、その中にキラシャンドラがすっぽりはまっているせいで、それほどの不快さはない(と、わたしは思う)。
さて。声にひずみがあるためにソロ歌手をあきらめざるを得なかったキラがやってきたのはクリスタルを生み出す惑星ボーリィブラン。クリスタルにはさまざまな色と用途があるが、基本的には驚異的な光の貯蔵量を秘め、黒クリスタルに至っては惑星間の同時通信をも可能にする能力を持つ。しかし、それを切り出せるのは絶対音感の持ち主だけ。クリスタルの山と共鳴し、音波カッターでクリスタルを切り出すシーンは圧巻である。風が音をはこび、くすくす笑いが共鳴して返ってくる。その壮大さと優美さ。シンガーになるためのひとつひとつの訓練も読み応えがあるし、キラが山と共鳴したときの感動は、こちらの胸にも大きく響いてくる。
でもねえ……ひとことだけいわせてもらえれば、状況次第であちこちの男と手当たり次第に関係を持つのはやめようよ。とかね……続編「キラシャンドラ」を読むと、捨てられた男が憐れになったり、もするのである(苦笑)。
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