「ローレライは、あなたが望む終戦のためには歌わない」
           
     「終戦のローレライ」福井晴敏 講談社文庫

 昭和20年、終戦間近の夏。崩壊したナチスドイツからの戦利潜水艦《伊・507》に乗り組んだのは、一癖もふた癖もある男たちだった。《伊・507》の艦長になるまでは、弟を自決によって喪った後は艦に乗ることなく教鞭をとっていた絹見。いまだSSの制服を身にまとい、何か別の思惑で動いているらしいSS士官フリッツ・エブナー。経験も浅く、何をすべきかもわかっていないというのに、なにやら大役を命じられるために乗艦しているらしいことだけを知らされている17歳の工作兵、折笠征人は、友人の同じく工作兵清永とともに、それでもなんとか艦での生活になじもうとしていた。そんな彼に命じられたのは、ナチスドイツの秘密兵器、いまなお米軍も欲しているというローレライシステムの回収だった。
 「第二次世界大戦と女と潜水艦」を出すという三題噺のような条件を出され、映画化を前提に書かれた作品だという。ということで、ネタばれになってしまうかもしれないが……第二次世界大戦中の潜水艦であるというのに女性が登場する。
 ナチスが支配する戦時下のドイツにあって、日本人でありかつ特殊な能力の持ち主として、人間ではなく機械、部品としてのみ扱われてきたパウラと、そんな妹を守るためだけに生きてきたフリッツの兄妹。彼らの望みはドイツはもちろん日本の目指す道とも異なっていたはずだった。だが、《伊・507》ではじめて人間として扱われるようになった彼らは、徐々に心をひらいてゆく。そんな折、《伊・507》に与えられた思いもかけない使命。
 あるべき終戦の形とは何か。
 国、国家という大きなものと、小さな人の営み。人と人とのささやかなふれあいや信頼を描くことで、彼らの希望、彼らが未来に託した夢が重みをもって描かれている。



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