「あの子の復讐よ」
「最後の証人」柚月裕子 宝島社文庫
とある刑事事件。元検察官で敏腕弁護士の佐方が引き受けたのは、状況証拠、物的証拠とも被告人有罪を示す殺人事件の弁護だった。相手となる検察側の庄司真生も優秀な検事であり、自分自身の生い立ちからも、罪を犯した人間には絶対に罪を償わせるという強い信念の持ち主だった。公判はほぼ一方的に真生に有利な証人の証言で進むが、一方、佐方のほうはある証人の登場を待っているようで……
物語は、痴情のもつれによる殺人事件公判の流れと、七年前に起きた交通事故についての話が交互に語られる。七年前、飲酒と信号無視によって息子を奪った犯人は、公安委員長という立場を利用して事故をもみ消してしまった。それ以降、息子を失い、やつれていく妻を見るしかなかった高瀬の気持ちを変えた、ある出来事。それこそが今回の事件に潜む大きな背景となっていくのである。
正義を貫きたい、という思いは佐方も真生も変わりがない。しかし、罪を犯した人間は裁かれねばならない、という真生に対して、佐方は、人はその人間が犯した罪で裁かれなければ意味がない、という意志を持って検察を辞め、弁護士となっている。ふたりの対決の末、あらわれてくる真実とは何か――
ミステリ慣れしている人だと、もしかすると最後のオチは見えてしまうかもしれないのだが、それでも、リアルな法廷のシーンなど、読み応えはじゅうぶん。「最後の証人」はだれなのか。最後まで、どうぞ。
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