「ぼく、じぶんがシラサギであることが、いま、わかりました。とってもうれしいです。シラサギでいるってことは、とっても勇気のいる、むずかしいことなんですね」
                   
 「シラサギ物語」岩崎京子  講談社

 ひなのうちに巣から放り出され、人間のゆみちゃんに育てられたシラサギのケン。捨て子のケンはひねくれ、すなおになれずに他のシラサギたちとなかなか打ち解けることができない。けれどあるとき、他の子どもとこぜりあいをしていたケンのもとにあらわれたカシの木のだんなは、子どもたちにわたりの話をして聞かせる。長くつらい旅、そのためには強いつばさと、ちょっとのことではへこたれない強い心が必要なのだ、と。うつくしい姿に生まれたことだけでなく、わたりを終えたシラサギになることこそが誇りなのだと聞かされ、ケンははじめて、自分が人間ではなくシラサギに生まれたこと、みなの仲間であることに胸を張る。
 けれどもも色の足輪をつけたケンはわたりの途中でもあちこちにくちばしを突っ込み、ウミウに追われ、真珠泥棒と間違えられ、ついには嵐の海で他の仲間とはぐれてしまう……
 作者はあとがきで書く。
「わたくしはそれまで、シラサギといえば、たんれいで、せんさいで、優雅で、気品があり、そのうえ、日本人の好む、わび・さびを感じさせる鳥だと思っていました。(略)しかし、サギ山のサギは違っていました。たくましい生活力、とでもいいましょうか、ひなまでが、力いっぱい泣きわめいて、親にえさをねだります。その食べかたときたら……」
 生命力のあるサギたちの姿、わたりへのあこがれが生き生きと描かれている作品である。
人間と動物との心のふれあいのせつなさ、人がどんなに愛しても野生に戻る動物、彼らに感じるさびしさも感じられるように思う。



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