さあ、どうするか覚悟しなくちゃ。
「死の影の谷間」ロバート・C・オブライエン(越智道雄訳) 評論社
戦争が終わり、電話がまるで通じなくなって、ラジオの向こうの声も途絶えてしまった。父さん、母さん、兄弟、そして近所に暮らしていた店のおじさんたちは、「わたし」アンだけを置いて様子を見に出かけて、そのまま帰ってこなかった。おそらく、近くの町や村を全滅させた放射能にやられてしまったのだ……――なぜかはわからないが無事を逃れた谷間で、ひとりで畑を耕し、自立しているアン。だが、ある日、谷の向こうから、防護服に身を包んだ男が一人やってくる。アンは遠くからひそかに男を観察するが……――
核戦争後の世界。たくましく生き延びようとしてきた少女と、さまざまな知識を用いて生き延びてきた男。ふたりが力を合わせることで、もしかするとふたりは二度目のアダムとイヴにもなれるかもしれない……が、善人だけが生き延びるわけではない。つかの間の平和ののち、ふたりの関係に齟齬が生じてきたときが、怖い。
ひっそりとした谷間で、そもそもの最初から、畑や牧畜によって生活を成り立たせていた一家の娘に生まれたアンは、生きる力を身に備え、野草を見分けたり、魚を釣ったりと、かなりバイタリティあふれる少女だ。アンの日記形式で語られるこの物語を読むことで、読者であるわたしたちは、彼女とともに生き延びられるような気持ちになってくるし、その平安を脅かす男ルーミスにおびえることになる。ラストがまた衝撃的な展開。
1976年のエドガー・アラン・ポー賞受賞作品。ちなみに作者は「ニムの家ねずみ」の人。といっても、どれだけの人が知ってるかどうかわかんないけど。
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