これからも、学年があがって……少なくとも中学を卒業するまでは、校舎という大きな建物の中での、孤独なたたかいは続くのだろう。
              
  「深海魚チルドレン」河合二湖 講談社

 十三歳の真帆には、だれにもいえない秘密があった。それは、どうしても尿意を我慢できずに、50分の授業でも途中で逃げ出したくなってしまうということ。先生の話を耳にしながらも、いつトイレに行けるか、そればかりを考えてしまう。社交的で明るい母親に相談してみたけれど、気のせいだといって聞き流されてしまった。保健室の先生にもちゃんと相談することができなくて、だからいまでは、保健室に居座るような生徒たちとも保険の先生とも打ち解けられずに、やっぱり真帆はひとりきりだ。そんなある日、真帆は母親に呼び出されて仕方なく行った文化センターの近くで、ひっそりとたたずむ喫茶店<深海>と出会った。お人形のように可愛らしい男の子ユウタくんと、その姉で大人びた雰囲気のナオミ、ナオミのママで、喫茶店のオーナーでもある素子さん。いらっしゃいませ、ではなく、来てくれてうれしいわ、という迎えの言葉。営業時間もまちまちで、開いていたり、いなかったり。こじんまりとして静かで、限られたメニューしかなくて……だからこそ、この場にふさわしい人しか来ない場所。いつしか、真帆は何度も<深海>に足を運ぶようになっていくのだが……――
 明るくて積極的で向学心もあって、どんな人とでもすぐ仲良くなれてしまうお母さん。そんな母親を眩しく見あげながら、でも、深海にしか生きられない魚だっているんだ……と思う真帆。成長し、自分と似たような人々と出会うことで、ようやく真帆は想うことができるのだ。
でも、だからって、わたしが間違っていることになんかならない。
と。
 血がつながった相手だからこそ、わかりあえない絶望感。血がつながらない相手でも、わかりあえるという希望。
 静かな気持ちで読んでほしい。




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