「俺の人生において何の役にも立たないもんに一ビットだって脳の容量を割いてたまるか！」
　　　　　　　　　　　　　　　　　「シアター！」　有川浩　　メディアワークス文庫

　社内最強といわれる営業スマイルを持つ男、春川司は、若く優秀な会社員としてまっとうな道を歩んでいる。しかし、そんな司の唯一の泣き所（？）は、弟の巧。甘え上手で浮世離れしていて、司とはまるで価値観の違うこの弟は、弱小小劇団「シアターフラッグ」の主宰者だが、ずさんで放漫な経営のツケがたまり、劇団は解散の危機に見舞われていた。弟に借金を申し込まれた司が出した条件は、2年間で劇団の収益から借金300万円を返済すること。そもそも過去に黒字などほとんど出したことのない劇団に、この条件がクリアできるのか？　とはいえ、プロの声優、羽田千歳を迎えて、巧の意識も変わりつつあった。
好きだから、楽しいから、それでいい。評価なんかされなくてもかまわない。でも、ずっとそのままでいられるはずなんてない。このままずるずる続けていって解散するより、全力でぶつかって華々しく散った方がいいんじゃないか。
金を貸すからには口も出す。鉄血宰相と化した司の檄に、一癖も二癖もある劇団員たちが立ち上がった。
演劇を描いた小説というのは少なくないと思うが、この物語のメインは俳優たちでも脚本家でもない。制作という、裏方の裏方、資金繰りにやきもきし、広報活動に奔走する、そんな立場に陥った司を中心に、ひとつの芝居が成り立つまでの現実的な作業を書いているという点で、これまでの演劇小説とは一味違うような気がする。
さてこの物語、まだ2年目を迎えたわけではないので……続きがあるのかも？　それはそれで、楽しみなような。



オススメ本リストへ