「きみ、おれに何かウラミでもあるのか」
「そうよ。あたしは……あなたが捕まえさせた紅文字事件の容疑者小田切真介の姪ですもの」
              
  「特に名を秘す」(「青春探偵団」所収)山田風太郎 ポプラ文庫ピュアフル

 とある町の北はずれの山の南の麓にある霧ガ城高校では、仲のよいクラスメイトの男女6人が、探偵小説愛好会「殺人クラブ」を結成。退屈な日常から、少しでも楽しみを見出そうとして、月に一度の山頂での会合と、学内外で起こる事件の解決を目指すが、事実は探偵小説以上に困難で奇妙で、頭の中で考えているようにはうまくいかない。みすみす犯人の罠にはまって死体とともに閉じ込められたり、なりゆきで泥棒をかくまってしまったがために、自分たちの大切な城、東の麓にある男子寮、青雲寮の天井裏に作り上げた天国荘を教師に見つけられそうになってしまったり。いい気になって解決した事件にはどうやら裏があるようで、名指しした犯人の親族につけ狙われてしまったり……。
 いまでいうところのイケメンの秀才や、スポーツ系男子、そそっかしいお調子者、正義感の強い女の子、スポーツ万能の女子、と、個性的な面々がそろう殺人クラブ。昭和31年初出ではあるが、彼らの<青春>はじゅうぶんに現代にも通じるものである。
 とはいえ。
 いまでいうクールな若者である彼らが「森のこびと」や「雨ふりお月さん」などを唄って楽しんでいたりする場面や、そもそも彼らの言葉づかいなんていうものが、とても古風で奥ゆかしく、古き良き日本、というものも感じられてならない。どんなに蓮っ葉な女子学生でも、きれいな言葉を話していたんだなあ、と思う。
 山田風太郎といえば、中高生にオススメできるものは少ないが……「青春探偵団」はオススメ。解説は米澤穂信。米澤ファンも、ぜひ。



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