「馬鹿な」権藤がぴしゃりと言う。「君だって人間だ。まさか、ずっと起きていたわけではないだろうが。君が眠っている間に、誰かが通った可能性はある」
私は人間ではない。ずっと起きていた。本当のことが伝えられないのは、残念だ。
「吹雪に死神」(「死神の精度」所収) 伊坂幸太郎 文藝春秋
「私」、千葉は情報部から与えられた情報に従って、寿命の前に死ぬ人間の調査を行う死神である。調査の結果、彼が「可」と報告すればその人間は翌日には死ぬし、「見送り」とすれば、とりあえず寿命までは生き延びる。といっても、この調査制度は儀式的なものに等しく、よほどのことがない限りは「可」なのだが、一週間の調査期間はCDショップ等々で音楽を聴ける時間でもあるので、なるべく引き延ばしているというのも事実。
短編集。
物語は、そんな死神の千葉が調査対象となった人間と関わっていく様子を描いたものである。醜くて暗い女性や、ヤクザ、いまちょうど恋の第一歩を踏み出し始めた青年、人を殺して逃げつづける少年などなど、調査対象となっている人間が異なっているように、短編としての趣向も違う。
……ということで、「吹雪に死神」は密室連続殺人。いわくありげな宿泊客、謎めいたメッセージ、誰もいないはずの場所にいたのは誰か……と、オーソドックスな密室もののようだが、なにせそこには千葉(死神)が加わっている。人間とはちょっとずれた視点とちょっとズルのできる(情報部から情報がもらえる)千葉が謎解きをする、というとんでもない趣向で、これが笑える。
全体を通して読むと、思いがけないところでつながりがあったりして、ホロリとさせられる部分もある。かなりオススメの短編集。
ところで「死神の精度」って、一瞬イミがわからなくないですか? わかったつもりでもちょっとわからなくって、辞書を引いてみると、やっぱり最初の直感が正しい。タイトルもちょっと不思議、と思ったのはわたしだけかしらん。
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