「ちがって帰りたいといったのよ。あたし、このクローディア・キンケイドは、うちに帰った時はちがったクローディアになっていたいの」
「クローディアの秘密」 E.L.カニグズバーク(松永ふみ子訳) 岩波少年文庫
これは、クローディアの秘密の話ではない。といってしまうと、え? と思われるかもしれないが、本当のことだ。この話は、クローディアという少女が秘密を持つまでの話なのである。
物語はある意味、謎めいた出だしで始まる。それは、ベシル・E・フランクワイラーという人物が遺言を書き換えるために弁護士へ送った手紙だからだ。遺言状を残そうとしている老婦人と、家出しようとしている少女の、どこにどうつながりがあるのか? その謎に引きずられて、ページをめくることになる。
とはいえ、悪いけれど、クローディアはあんまり面白みのある女の子ではない。「計画をたてる」ことが好きで、家出にしたって森の中のような汚いところはお眼鏡にかなわず、選んだところはメトロポリタン美術館という……ある意味で、あまりにも「常識的」「日常的」な女の子。美術館の中では一日に一部屋ずつ勉強しましょう、と、ただ居座るだけでなく勉強することだって忘れない「いい子」でもある(国連ビルに行って国連について勉強したりもする)。
けれど。そんな自分にクローディア自身が嫌気を感じていると気づいたとき。それまで、なんだか好きになれないなあ、なんて思っていたのが嘘のように、ぐっと親近感がわいてくる。美術館にある美しい天使像。それがミケランジェロのものなのか、そうでないのか。謎ときに必死になる彼女に、いつしか同調しているのである。
常識的で「日常」に安住し、いい子のクローディアは、家出をしても、結局はその家出の状況になじんでしまって、「変わる」ことができない自分を、誰よりも悔しがっている。ちがって帰りたい。ちがったクローディアになりたい。そんな彼女の望みはかなうのか。天使像が、そのきっかけになるのかならないのか……それはぜひ、読んでもらいたい。
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