「ピーター、ちっともあなたらしくないわよ」ウェンディは、よびかけた。「ほんとのこと言うと、あなたがだれだか、わからなくなったわ」
「この冒険、たいくつでうんざりなんだよ! 陸にあがってから、一度も戦ってないんだから!」
           「ピーター・パン イン スカーレット」  ジェラルディン・マコックラン(こだまともこ訳) 小学館

1920年代のいつか。ロンドンのあちこちで、夢にうなされる「もと男の子」たちがいた。ジョン、トゥートルズ、ニブス、スライトリー、カーリー、そしてふたごたち。目がさめるたびに、海賊が使う探検や、弓や、シルクハットがベッドの中にあらわれる。人魚の夢を見た次の日は、魚のにおいが一日じゅうただよう始末。いまは医者や判事になった「大人」だけれど、困ったときに彼らが頼る人といったら・・・・・・ウェンディに決まってる。そして、「もと男の子」たち、かつてネヴァーランドに行ったことがあるという共通点をもつ彼らは、もしかしたらネヴァーランドに何か悪いことが起こっているのではないかという思いにかられて、ネヴァーランドを目指してゆく。そして、恐れていたとおり、彼らが見たネヴァーランドは、かつてとはすっかり姿を変えていた。そしてピーター・パンも・・・・・・
ご存知ジェイムズ・マシュー・バリの「ピーター・パン」続編。この本の成り立ちについては、本のはじめに書いてあるものを読んでいただければと思うが、コンペティションを勝ち抜いて選ばれただけあって、「ピーター・パン」に忠実な続編となっている。わくわくするような冒険の一方にある、ウェンディたちの大人にならなければならない哀しみ、そしてピーターが持つ、永遠の子どもであることのせつなさまで。
戦争で親しい人を失う哀しみが語られたり、ピーターの変貌とともに、親に見捨てられた子どものせつなさにふれられたり、テーマは重い。しかし、うそつきの妖精ファイアフライアなど、新しい登場人物も加え(ティンカー・ベルとファイアフライアの愛らしさは必見)、たのしさもその分アップ。かつて「ピーター・パン」を読んだ人も、これから「ピーター・パン」を読む人も、ぜひこの続編まで手にとってもらいたい。



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