あたしが秋を、絶対守る。
「NHKドラマ・六番目の小夜子」
……さて。恩田陸「六番目の小夜子」は日本ファンタジーノベル大賞最終候補作品、である。それがどういうことかといえば、申し訳ないが拙い。視点はころころ変わるし、書き割り的な地の文が平気で出てくるし。で、実際わたしはこの本をハードカバーの段階でも読んでいたのだが、どうしても「オススメ文」を書こうという気持ちにまではならなかった。が、しかし。
NHKのドラマにすっかりはまってしまったので……今回、こういう運びとなった。
さてさて。
まずは、原作の登場人物のおさらいをしよう。
関根秋。この地方ではよく知られた家で、代々法曹界に名を成し、祖父も父も裁判官である。父親関根多佳雄氏はなかなかの「大人物」であり、身体も大きいが存在自体も大きい。秋はその多佳雄氏の血をひいているので、背も高く(おそらく身体つきも大きく)、縁なしの眼鏡をかけた知的な雰囲気の大人びた少年だ。学校でもどうやら学級委員をしているらしく、クラスの意見などをまとめる役を務めている。
唐沢由紀夫。秋とは家が近所の上に、小、中、高と同じ学校、さらには高校三年間同じクラス。バスケは得意だが頭のほうはいまひとつの、しかし明るくてさっぱりした少年。同じバスケ部の花宮雅子のことが好きで、同じクラスになったことをうれしく思いつつ、自分の頭のバカさ加減がばれるのはいやだなあ、と複雑な感情を抱いている。
花宮雅子。秋いわく、巫女的な雰囲気のある少女で、ふだんはあどけなく可愛らしい少女。転校生津村沙世子の美しさや行動力に魅了され、友達でいる、ということを誇らしく思っている。
……ま、沙世子自身はともかくとして、こういうものだと思ってもらいたい。
原作は、この三人から見た沙世子を中心に話が進められる。特に、雅子(まあ)が沙世子と親しくなったために、四人で予備校に通ったり、海に遊びにいったり、するわけだ。
さて、NHKではどうなっていたか。
まず、設定そのものが高校三年生から中学二年生に変えられている。ゆえにどうなるかといえば、原作ではサヨコがゲームに勝つと大学の進学率がいい、ということになっているのだが、ドラマでは「すべての扉がひらく」と抽象的な伝説だけが残されているために、秋や玲たちは扉とはなんなのか、その扉はひらいたのか閉ざされてしまったのか……悩みつつ、手探りでサヨコ伝説とむかいあっていく。端的にいってしまえば、サヨコ伝説がより学校の怪談らしくなっている、といってもいい。
それでは登場人物を見てみよう。
関根秋。前年に心臓病の手術をしたため、中学二年生をもう一度することになっている。成績はいいのだが、クラスの中でも「先輩」と呼ばれ、ガリ勉タイプには「もう一度やっているひとは有利」などといって嫌われ、なんとなく自ら影の薄い存在になろうとしているような雰囲気もある。原作の秋はひとの大勢いる写真を第三者的に撮ることが好き、となっているが、ドラマの秋はだれもいない教室、だれもいない校庭、などを好んで撮る。この「秋の撮る写真」がサヨコと関わることで変化していくのも、ひとつのドラマの要。原作ではサヨコの鍵を途中で引き継いでしまう秋だが、ドラマでは最初、秋の元にサヨコ伝説のはじまりとなる「鍵」が送られてきてしまう。
唐沢由紀夫。秋の年子の弟(!)で、両親が離婚したために唐沢姓となっている。ちなみに、秋は母親と暮らし、由紀夫は父親(唐沢多佳雄。迷子の動物を探す探偵社を営む)と暮らしている。秋が病気のために自分と同学年となってしまったこと、秋が母親と暮らしていることに微妙な鬱屈を感じていて、秋との関係は距離をおいたようなものになっている。花宮雅子とは同じバスケットつながりということもあり仲がいい。
花宮雅子。学級委員を務め、クラスの意見などをまとめる役をしている。クラスの意見を代弁することも多い。基本的には明るく、そう悪くはない性格だが、転校生津村沙世子のことをうさんくさく、目障りな存在だと思っているために、ときには沙世子のことをひどく傷つけるようなことばを口にする。おそらく、原作の秋の外交的な部分を取り上げたのが雅子。
見てもらえばわかるように、秋も由紀夫も雅子も原作とはまるで異なっている。それでは、原作で転校生と仲良くなった雅子はどこに? 秋の親友である由紀夫は?
それが、新しい存在である、潮田玲。
潮田玲。秋とは幼なじみで、頭のほうはいまひとつだがバスケ部で活躍する明るい少女。転校生津村沙世子のことを最初こそ奇妙な存在だと思うが、少しずつ親しく、仲良くなっていくことでサヨコ伝説を楽しみ始める。
そうなんです。原作の雅子と由紀夫を掛け合わせたような存在の玲が出てきたことで、この話は原作とはかなり違う、しかしいうなれば原作よりもかなりおもしろい作品になっている、といえる。
ドラマでは、秋の元に送られてきた「サヨコの鍵」を、玲がどうしても自分がサヨコになりたいということで譲り受け、六番目のサヨコになることからはじまる。しかし、サヨコは他にもいるのだろうか。サヨコがやるべき始業式に飾る花、それさえも怜はだれかに先を越されてしまう。そして、掲示板に張り出されるサヨコからのメッセージ。スライドに映るサヨコを呪うことば。妨害をするサヨコ、もうひとりのサヨコ、そして転校生、津村沙世子。怜の周囲にはあまりにも多くのサヨコが存在する。混乱する玲。そしてさらには戻ってきた「四番目のサヨコ」。不可解な行動をとり始める秋。玲は、いったいだれを信じればいいのか。
原作をどこまで改変していいのか、という話もあるだろう。
けれど、わたしはこれでよかったのだと思う。
特に、弟と同じ学年になってしまい、自分よりも健康な幼なじみの少女に守ってあげる、などといわれてプライドを傷つけられてしまう関根秋は、原作よりずっとずっと人間味のある存在だったと思うのである。
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