「馬鹿っサヤ。また来たよ」
                
    「ささらさや」 加納朋子  幻冬舎文庫

 「俺」とサヤ、結婚して子どもが生まれて、しあわせな日々を過ごしていた家族。五月のよく晴れた日曜日、ちょっと足を伸ばして大手のスーパーに出かけて、今晩はカツオのたたきなんて悪くないねえ、ニンニクたっぷりのせてさ。なんて思っていたのに……横断歩道につっこんできた女子大生の車にはねられて、俺はどうやら死んでしまった。お人好しで気が弱くて泣き虫のサヤと、生まれたばかりのユウ坊を残して。サヤときたら馬鹿がつくほどのお人好しで、慰謝料でさえちゃんととれるかどうか危ない始末。けれど、そんなサヤもひとり息子を失った俺の家族がユウ坊を取り上げようとしているのには抵抗し、佐佐良の街へ逃げ出した。俺もまた、サヤと一緒に。
 連作短編集。サヤが出会う、不思議な事件。そんなとき、お人好しのサヤを守ってくれ、謎解きをしてくれるのは、他人の姿を借りて出てくる亡き夫だった。ときには夫の友人のお坊さんに、ときには初老の駅員に、ときには宿の大おかみに。姿かたちは違っても、懐かしい口調はそのままに。
 母子家庭という言葉がもたらす悲愴感はないものの、サヤの生き方の甘さ、それで子どもをちゃんと育てられるのか! というあぶなっかしさは、死んでしまった夫ならずともはらはらする。が、世の中はうまくしたもので、未熟な若い母親を助けてくれる婆さん連中やら、強烈な個性を持つ同じく母子家庭の母親やらが登場し、サヤを守ってくれるのである。いつまでも見守り続けることのできない夫も、これならきっと安心だろう……と思えるように。
 加納朋子のほんわか日常ミステリ。オススメ。



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