この石みたいになめらかに、すべてが運んでくれますように。
 サラが、わたしとパパとケイレブのことを、この石みたいにすてきだと思ってくれますように。
 ああ、ここにわたしたちの海があればいいのに……。
        
「のっぽのサラ」 パトリシア・マクラクラン(金原瑞人訳) ベネッセ

 どこまでも広がる緑の大草原、そこにあるちいさな家に、サラはやってくる。幼い姉弟のためにパパが出した新聞広告を見て、パパの新しいおくさん、わたしたちの新しいママになるために。黄色の帽子をかぶったのっぽでぶさいくなサラ。海が大好きで、歌うことも大好きなサラをみんなすぐに大好きになる。けれど、サラはほんとうにここにずっといてくれるんだろうか? サラの大好きな海、青と緑と灰色の海はここにはないけれど……
 姉娘アンナの視点から書かれたこの本は、やさしさと切ないまでに母親を求める気持ちにあふれている。サラのことばのひとつひとつに、一喜一憂する姉弟。特に弟のケイレブはほんとうの母親の記憶がまったくないために、その幼い愛情のすべてをサラにそそぐ。サラのひとことひとこと……「そのうち」ということばを聞けば、サラはまだ家にいるつもりなんだ、とにこにこし、サラが実家にあてた手紙の中の「干し草でできたうちの砂浜」の「うちの」に、にっこりする。だからこそ、サラが馬車の乗り方を覚えてひとりで町に出かけてしまったとき、ケイレブは「どうして」という。「どうしてサラはひとりでいかなくちゃいけないの?」 駅へ帰りの切符を買いに行ったのではないかと怯えるケイレブの哀しみは、読んでいるこちらの胸をえぐるほどにさびしい。
 家族ってなんだろう。それが血のつながりではないことを、この本は教えてくれる。「家」の大切さ、家族のつながりを考えさせてくれる本だ。
 なお、この話は作者の家に実際に起こった話だそうである。



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