「私は何があっても復讐を果たします。それまでは捕まらないつもりです。そのかわりに、復讐を果たした時には、その足で即座に自首いたします。情状酌量を求める気はありません。たとえ死刑が宣告されても構いません」
「さまよう刃」東野圭吾 朝日新聞社
妻亡きあと、男手ひとつで大切に育ててきた娘の絵摩が拉致され、無残に蹂躙された死体となって戻ってきたとき、父である長峰の人生は一変した。ただ己の楽しみのために少女たちを拉致し暴行を加えていた男たちへの復讐を誓った長峰は、一本の密告電話から警察よりも先に加害少年の居場所を突き止め、そのひとりを殺害する。その後、長峰と警察から逃れるために姿をくらました主犯格の少年を追うために、姿も名も変えてペンションに潜む長峰。遺族による加害少年の殺害について、マスコミは少年犯罪の刑罰の軽重が被害者遺族の感情と釣り合うのかと問い、警察内部でも長峰に対する同情論が密かにささやかれる。だが、長峰への同情論は強くあるが、警察は長峰を追わざるを得ず、また、どんな不良少年であっても、もうひとりの加害少年を長峰に殺させるわけにはいかない。
正義はどこにあるのか。警察が振り下ろす刃は果たして「悪」を断ち切ることができるのか、それとも……
物語は長峰の他、主犯格のアツヤとカイジの罪を知りながら、運転手役、あるいはビデオの撮影役として使われてきた誠の、自分だけでも罪を逃れる手段はないかと頭を悩ませる姿や、長峰を追う立場にありながら共感を覚えずにはいられない織部、そして自分のペンションの泊まり客が長峰であることに気づくが警察への通報をためらう和佳子……など、さまざまな人々の想いを絡ませて進んでゆく。
長峰のしたことは正しかったのか。物語の登場人物たちそれぞれのしたことは正しかったのか。重いものを突きつけてくる作品である。
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