「さすが北町の伊原伊十郎が吹聴するだけのことはあるぜ。俺たちにとっちゃ、火盗改よりも恐ろしい敵だ」
「三人佐平次捕物帳 地獄小僧」 小杉健治 角川書店
北町奉行所の定町廻り同心伊原伊十郎は、昨今の岡っ引きたちの素行の悪さに頭を痛めていた。ひとの弱みにつけこんでの揺すり、たかり。ごろつきと変わらないどころか、おかみの威光を背負っている分、ごろつきよりも始末に悪い。そんなある日、伊十郎が捕まえた美人局の三人組は、頭は切れるが悪人面の平助、身体が大きく、力だけは人並み以上の次助、役者もかなわぬ美貌の佐助。ひとりひとりを岡っ引きとして使うことは出来ないが、彼らをまとめてひとりにすれば……? そこで伊十郎は彼らの罪を見逃す代わりに、三人でひとりの「佐平次」親分として江戸の町に売り込むことを決意する。岡っ引きの評判をあげることを第一の目的とした佐平次親分の活躍がここに始まる。
三人佐平次捕物帳第一話め。
物語時代はとっても大真面目なのだが、実はこの話は「探偵術教えます」によく似ている。江戸の町をおびやかす「地獄小僧」、佐平次の誰ひとりとして地獄小僧が誰だとか、誰があやしいとか、そんなネタをつかんでいるわけではない。だが、間男していた女に突然姿を消され、女の姿を追い求める佐助がふらふら探し歩くことこそが、地獄小僧たちを震えあがらせる元となるのだ。佐平次たちはまったく思いもかけないところで、悪党たちのあいだで評判があがっていき怖れられていくさまは、笑いなくしては読めない(が、作者はどうも笑いをとろうとしているわけではないらしく、物語は真面目に展開するのだが)。
兄弟ひとりひとりの個性と、互いに助け合いながら生きていく姿もよい。シリーズを追うごとに、偶然ではなく能力によって事件を解決していくようになる佐平次親分。かなり楽しめます。オススメ。
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