「そろそろおとうさんと仲直りしてほしいんだ」
「仲直り?」
「ああ。北元先生はもう亡くなったけど、きっとレイちゃんを見守っている。だから、そのことを心に刻んでほしい」
「ルビアンの秘密」 鯨統一郎 理論社
高校二年生の北元冷は、八年前に家を出ていったきりの父親に離婚届をつきつけてやろうとしていた。八年も籍を抜かずにいる両親にしびれを切らし、勝手に離婚届を持ってきたのだ。だが、父のマンションを訪れたレイを待っていたのは、胸に刃物が刺さったまま、倒れている父の姿だった。そして父は、慌てて抱えあげたレイの腕の中で、「ルビアン……」という謎の言葉を残し、死んでしまう。
恨んでいたとはいえ実の父親を殺されたレイは、「ルビアン」という謎の言葉の意味をさぐるために動き出す。植物学者で、家族よりも何よりも研究第一だった父、北元英樹。研究一筋だった父が、だれかに殺されるようなことに関わっていたはずもない。いったい何があったというのだ? 父が遺したポーリン製薬の株券や、北海道の原野に手掛かりはあるのだろうか。野草研究会の仲間や父の同僚だった人々に助けられながら、レイは徐々に謎に近づいてゆく。
父親のことを恨んでいるレイだが、植物学者の父の影響を受け、野草研究会ではリーダー格となって活動している。ごくありきたりな、庭や道端に生えている草木を大切にしようとするレイたちの姿勢のあらわれのように、物語の中にも当然のようにたくさんの草花が登場するし、それらに対するレイの愛情が伝わってきて、ほのぼのする。庭の七草や道の七草、野草研究会のメンバーがそれぞれの思いを込めて選んだ七つの草木。もちろんこんな他愛のないことも、ちゃんと謎解きに絡んでいる。
女子高生が自分のできるかぎりの知恵や手段で謎解きに挑戦する物語。安心して読めます。
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