「人が何かを完全に確信している時、それは決して真実ではないのです」
「ロマンス」柳広司 文藝春秋
ロシア人の祖母を持つ子爵、麻倉清彬は華族間でもはみ出し者であったが、唯一、学生時代からの友人、多岐川伯爵家の長男、嘉人とは親しくつきあっていた。しかし、ある日、嘉人に呼び出されていったいかがわしげなカフェではひとりの男がナイフで首を刺されて死んでおり、嘉人の身元保証人となった清彬は、口からのでまかせで嘉人の窮状を救ってみたものの、親友への疑念がわき起こる。折も折、特高のひとりが清彬のもとを訪れるに至って、清彬は不穏なものを感じるが……
本来ならばまったく無関係のはずの殺人事件。だが、清彬が嘉人に疑念を持ったように、嘉人もまた清彬を疑っているらしい。どうしてそんなことになるのだ? 冴えた頭脳をいかして、清彬は推理を組み立てる。
昭和初期の退廃的な雰囲気の中、華族の一員でありながら、どうしても華族に(というより日本に、かもしれない)なじめない清彬の視点から、殺人事件、共産主義活動家の摘発といった問題が描かれる。「ジョーカー」ほどの勢いというかおもしろさはないので、いまいち面白みに欠けるというか、もう少しキャラが立っていてもいいんじゃないかとか思うのだが、だらだらした雰囲気というか、退廃的な感じはよく出ているのかも。
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