今自分の人生と思っているものは、実は夢にすぎないのではないかと思った。三人は、現実には十一歳の少年のままどこかの地下室に閉じ込められていて、もし逃げられて大きくなっていたらという姿を想像しているだけではないか。
                「ミスティック・リバー」デニス・ルヘイン(加賀山卓朗訳) 早川書房


 11歳のある日、通りで遊んでいた三人の少年に近づいてきた車から降りてきたのは、警官を思わせる男だった。男は三人を叱りつけると、この地区に住んでいないといったデイブだけを車に乗せて、助手席の相棒ともども走り去った。ショーンもジミーも、そして大人たちの誰もがデイブは死んだものと思っていたが、四日後、デイブは自力で脱出し、戻ってきた。しかし、デイブが勇敢な少年として新聞の一面を飾ったのはわずかな期間のことだった。デイブのことを褒め称えた同じ子どもたちが、"異常なやつ"としてデイブをいじめはじめたのだ。孤独なデイブを救う者は誰もいなかった。学校の違うショーンも、同じ学校のジミーも……彼らはそもそも友だちだっただろうか。
 25年後、犯罪者から更生し、いまは雑貨店を経営しているジミーの娘、ケイティが惨殺された。事件を担当するのは、刑事となったショーン。そして、捜査線上にデイブの名が浮上した。
 狭い町で生きている彼らの人生は、折々で交錯している。だが、ケイティの事件は、彼らだけでなく、彼らの妻や子どもたちを巻き込み、次々に悲劇を生んでゆく。
 登場人物の一人一人が丹念に描かれ、彼らがなぜそのようなことをしなければならなかったのか、なぜ事件が起きてしまったのか――ということがくっきりと見えてくる。匂いや手ざわりといった描写も秀逸。ラストシーンの奇妙に明るいシーンの残酷さがたまらない。



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