父さんが死んだことで、兄ちゃんも、母さんも、負担を背負っている。なのに、医者にならなかったら、自分だけが、その負担から逃げることになる。
          
  「リリース」草野たき  ポプラ社

 中学二年生の明良の誕生日は、親戚一同が集合する――父さんの命日。死んだ父さんの願いだったからと、親戚中から医者になることを期待されている明良は、確かに、成績も優秀で、バスケット部でもキャプテンをつとめる優等生。けれど実は、いまは勉強よりもバスケのほうが好きで、将来は医者なんかよりNBA選手になりたいと思っているし、そのためには、中学の弱小チームは身体ならしで、熱心に取り組まないチームメイトのことは内心ひどく不満に思っている。それを表に出さないのは、なあなあでも仲良しごっこを続けていたほうがいいと思っているからだ。ところがそんなある日、それまで顔も知らなかった同学年の女子から呼び出された明良は、信頼していた兄の秘密を知らされてしまう。いったいこの女子は、それを自分に伝えてどうしようというのだ? ゆすりなのか? 困惑する明良に追い打ちをかけるように、バスケ部でも問題発生。次々につきつけられる出来事。ついに明良は……――
 自分がほんとうにやりたいことって、なんだろう。
 家族をはじめとした、みんなが少しずつ秘密の顔を持っていることに気づく。けれど、その顔と表の顔、どちらが本当の気持ちなんだろう?
 さまざまな出来事がテンポよく描かれていて、次々に読めてしまうと思う。



オススメ本リストへ