ようこはりかさんを抱きしめ、りかさんはその存在でようこを励ました。
                
 「りかさん」梨木香歩 (偕成社)

 少女にとっての人形とはどんなものであれ、このように存在でだけで慰め、励ましてくれるものであるだろう。けれど、ようこのりかさんは特別だ。「リカちゃん人形」がほしい、といったようこの元におばあちゃんから送られてきた市松人形。最初こそがっかりしてしまったものの、りかちゃん、と名前を呼んでぎゅっと抱きしめたときからようこの世界は変わり始める。おばあちゃんに教えられたとおり、一緒に食事をし、着替えをさせ、寝ているうちに、ようこにはりかちゃんの(ようこよりも明らかに年上であるらしいこの人形のお願いによって、ようこは「りかさん」と呼ぶようになるのだが)声が聞こえるようになるのである。
 りかさんによってひらかれた世界は人間の思いを受けとめた人形たちによって語られる不思議なもの。人形の恨みはそのまま人間の業。幼いながらもそれらとかかわるうちに、ようこは少しずつ成長していく。ようこらしく。人とのかかわりにおいても、世界とのかかわりにおいても……ようこらしく。
 この話だけでもじゅうぶんに楽しめるものだが、できればぜひ新潮社から出版されている「からくりからくさ」も読んでもらいたい。成長したようこだけでなく、りかさんの中で語られ、結末が出ないままで終わった話の続き、感動的な結末が楽しめることだろう。
 なお……この、人形が一緒に食事をしているうちに持ち主とこころを通わせるという設定は漫画ではあるが川原由美子「観用少女(プランツドール)」(朝日ソノラマ)を思わせるところもある。機会があればぜひそちらにも目を通してもらいたい。



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