何から説明すればいいのだろう。どんなふうに話せばいいのだろう。過ちとは何だ。誰がそれを裁けるのだ。何を願い、どんな代償を支払えば、人は過ちを犯さずに生きていけるのか。
        
   「ラットマン」 道尾秀介  光文社

 高校時代の同級生、今年、揃って三十歳になったアマチュアロックバンドのメンバー。それぞれに違った人生を歩みながらも、この十四年、曲がりなりにもライブ演奏を続けてきた。だが、ギターの姫川にはそれほどまでに長く深い付き合いの仲間にも告げていない過去があった。小学生時代の姉の死。その死に家族がかかわっているのではないかという疑惑。死にゆく直前の父の言葉が呪詛のように姫川の脳裏にからみつき、そしていま、同じバンドのメンバーで、周囲からは結婚を目前とされているひかりから、想定外の妊娠を告げられた姫川は、密かにあることを決意する――
 姫川の姉と、恋人。ふたつの死に関連はないが、それぞれ絡み合った複雑な想いが疑惑に疑惑を呼び、謎を深めてしまう。
 殺意はどんなときに生まれるのか。友人が、恋人が、罪を犯したと知ったときには、何をどうすればよいのか。互いに互いをよく知っているからこそ、誤解も疑いも深まってしまう。
 ミステリとしてはオチに屈託が残らないわけでもないのだが、消化しきれない青春時代を引きずった彼らの想いが犯罪に絡んでいくさまは、見応えあり。
2008年度本格ミステリ・ベスト10の第2位ほか、複数にランク入り。さらりと読めるミステリ。




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