「だけど、私的探偵行為は違法だ」
          
   「闇の喇叭」 有栖川有栖  理論社

 第二次世界大戦後、ソ連の支配下に置かれた北海道は日本から独立。南北に分断された日本で、政府は国内外に監視の目を光らせ、犯罪者の検挙率100%を目標に掲げる警察は、探偵行為を禁じ、探偵狩りも激しさを増していた。奥多岐野高校に通うソラこと空閑純、有吉景以子、小嶋由之の三人にとって、その環境は息の詰まるようなものだったが、それでも日々の中には、ちょっとした恋めいたものや、ささやかな謎ときなどが小さな楽しみとしてあった。しかしそんなある日、のどかなはずだった奥多岐野で、身元不明の男の死体が発見される。その直前に奥多岐野を訪れていた謎の女性と関連があるのか。女は、そして死体となった男は、なぜこんな山奥の町にやってきたのか。徴兵制のある日本で、身元の分からない死体などあるはずもなかった。ならば、男は北のスパイなのか? 警察の捜査の目が厳しくなる中、ソラは景以子の母親の疑いを晴らすために、密かに探偵行為を始める。だがそれは、かつて違法な探偵行為のために姿を消した母や、いま探偵であることを封じてひっそりと暮らす父の生活を脅かすものになりかねなかった。
 もうひとつの日本で起きる殺人事件を描いた一作。
 南北に分断された日本の姿か、殺人事件か、どちらかでよかったんじゃないか、という気はしないでもない。とはいえ、私的探偵行為が禁じられている中で、探偵として生きる、探偵行為をする、というスリル(?)は確かにある。
 闇の奥から聞こえてくる喇叭の音は、何を伝えようとしているのか。最後の最後まで、目が離せない。



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