洋子が愛しているのは、リアルな現実そのものだ。異質な妄想も、風変りな空想も、物語の中に存在してこそ。非現実的な現実なんて、言葉自体、破綻している。
                 「レインレイン・ボウ」加納朋子 集英社文庫


 チーズが死んだ――。
 心臓が弱いのに弱小ソフトボール部に所属し、「私ってどうしてこんなに美人なのかしら」「頭がいいのかしら」「器用なのかしら」と口にしてもそれが嫌みにならない愛らしさを兼ね備えていた牧知寿子。若くして命を落とした友人の通夜に集まったかつてのソフトボール部員たち。編集者や保育士、看護師、管理栄養士として働いている者もいれば、専業主婦や無職の者もいる。それぞれの立場でそれぞれの悩みや喜びを抱えながら生きる25歳前後の女性たち。友人の通夜で再会した7人の女性たちの胸に去来するものは過去ばかりでなく、過去からつながっている現在そのものでもある。
 知寿子はなぜ死んだのか、そして知寿子の一番の親友であったはずの長瀬里穂はなぜ通夜にも葬式にも現れなかったのか。ひとりひとりがめぐり合う日常生活のささやかな謎とともに貫かれる一本の謎。
 物語の中に「あなたらしい」といわれて戸惑う姿が何度か出てくる。「あなたらしい」、「自分らしい」っていったいなんだろう。見えているものと見えていないもの。自分にだからわかること、自分にだからこそわからないこと。高校を卒業して何年もたっているからこそ見えてくるもの。高校生のときにはおそらく想像もしなかった25歳を迎えた彼女たちの生活と夢と現実。のびのびとした筆致がさわやかな作品。登場してくる女性たちそれぞれに、どこか共感や懐かしさをおぼえずにはいられない。オススメ。
 なお「月曜日の水玉模様」との関連もあるので、どちらからでも両方ともぜひ。




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